籠り物語
風呂道具を部屋へと置いてすぐにパブリックスペースへと向かった。
電気はついておらずまだ誰も居ない様だった。
パーティの準備でもしているのかと厨房へと様子を見に行く事にした。
しかし、厨房にも誰も居ない。
宴会している宿泊客の声が館内に響いている。
卓はひとまずパブリックスペースで待つ事にした。
暗いパブリックスペースを開けると
「おめでとう!」
卓は驚いて心臓が張り裂けそうになった。
ろうそくの火が灯ったホールケーキと共に
「誕生日おめでとう」
そう言いながら部屋の影からチカさんが現れた。
神戸屋のみんなが拍手で
「おめでとう」
と声をかける。
卓は照れながら
「ありがとうございます」
そう言って微笑した。
「ほらっローソク消して」
ちかさんに促され卓はローソクを一息に吹き消した。
部屋の明かりが付けられ
「おめでとう」
盛大に皆の声が響き渡る。
そこにはチカさん夫妻の息子のゆうき、持病のため普段はほとんどオーナーの部屋に籠りっきりのオーナーの奥さんまで来てくれていた。
誕生日と大晦日、特別なはずの1日が何事も無く終わっていく。
そう思い込んでいた卓にとって、これ以上無いサプライズとなった。