幸せの白い犬 ⑪
ハッピーの様子は一向に良くなる兆しがなかった。それどころか日に日に衰弱していき、とうとう歩けないほどになっていた。
もうおしっこどころか、うんちも出なくなりお腹はパンパンにはっている。
とても苦しそうだ。
この頃キミはハッピーから片時も離れず、誉もずっと側に寄り添っていた。
なんとかおしっこもうんちも出てくれ、毎日毎日そう願った。
だがハッピーの状態は悪くなるばかり…
「頑張ろうな!ハッピー!」キミが頻りに声をかける。ハッピーはもうほとんど反応する事ができず目だけをこちらに向けてくれるので精一杯だった。
この日は休みの前の日で夜遅くまでハッピーに寄り添っていた。
誉はキミが見てるからとキミより先に布団に入ったのだった…。
次の日泣きじゃくるおかんに誉は起こされる。
「誉…ハッピーが…」おかんはそれしか言葉にできない。
誉は飛び起きてキミのいる部屋へ走る。
そこには、目を真っ赤にして涙を流すキミの姿、そして生きているようにしか見えない安らかに眠るハッピーが居た。
誉は泣き叫びながらハッピーを抱きしめた。
「よう頑張ったな、しんどかったなぁ…やっと楽になれたんや」誉は涙を流しながら話しかける。
「いっぱいいっぱい幸せ運んでくれてありがとうな、大好きやで。」
精一杯の感謝と愛情をハッピーに伝えた。
キミが静かに語り出す。
「昨日の夜中な、ハッピーチラチラこっち何回も確認しててん…」キミは涙を流しながら話す。
「ほんでおしっことうんち両方してんやん。それ見て安心してもうて寝てしまったんやんか…ほんで起きたら…」涙で話す事ができない。
少し落ち着くとキミが続けた。
「多分最後にチラチラ確認してたんは寝たかどうか見てたんやと思う。ほんで安心させるために最後の力振り絞って出したんやわ。最後の最後まで空気読む賢いやつやったんやで」
誉も同じ事を思っていた。恐らく安心させたかったのだろう。
うちに来てから気を使い、空気を読んで賢くしていたハッピーが、この時とても肩身の狭い思いをしていたのではないかととても後悔した。
今まで歴代の家族達と別れを告げてきた平戸家だが、誉は別れをする度に後悔してしまっていた。
全力で愛を注いでもやはり最後は後悔する事ばかり考えてしまうものなのだ。
この日はハッピーと共に1日過ごそうと家族はみなハッピーを囲んで夜を明かした。