幸せの白い犬 ⑦
蝉の鳴き声が煩くその声で目が覚めた。
誉は休みの日は昼まで寝るのがお決まりだった。
寝るのが好きで休日のアラームの無い目覚めが休日の幸せなのだ。
だが、この日は蝉の目覚ましで目を覚ました。
リビングに出ると誰も居ない、ハッピーもいない
「あれ?どっか連れていったんか?」ぼそっと独り言を言いながら誉は考えた。
ふと玄関を見ると夏の間だけ使っている網戸の玄関扉が少し開いている。
誉は血の気が引いていくのを感じながら、寝癖もひどい寝間着のまま飛び出した。
団地の廊下を走りながら
「ハッピー、ハッピー」と何度も呼びかけながら必死に探したが居ない。
ふと聞き覚えのある声が団地の下の公園から聞こえる
「ワン!ワン!」
誉は4階の廊下から公園を見下ろす、そこには近所の子供達と一緒に元気に走り回るハッピーが居た。
誉はものの数秒で階段をかけおり走ってハッピーのいる公園へとむかった。
「ハッピーおいで!」
その声に気づいたハッピーはピタリと足を止めこちらを振り返ると、尻尾を振りながら一目散に誉の元へと走ってきて誉に飛びついた。
「びっくりするやん、頼むでほんま」とハッピーに語りかける。
なんとも無邪気な様子に誉は怒りもせずにハッピーを抱いて家へと帰る。
驚かせる事にはことかかないハッピーだが、どうもうちの兄弟のように突拍子もない事をしでかす辺りは飼い主に似たのだろう。
家に帰りハッピーの汚れた足を濡れたタオルで拭いてやった。
走り回って喉が渇いていたのだろう。
物凄い勢いで水を飲んでいた。
そこへおかんが帰ってきた。
「ハッピー脱走しててびっくりしたわ」誉が言うと
「うそやろ!どうやって?」おかんは驚いて誉に聞き返す。
「なんでかは知らんけど網戸がちょっとあいててそっから出てったんやろな、公園でチビちゃんらと遊んでたわ」と笑い声ながら説明した。
「ほんまぁ、良かったわ」とほっとした様子でハッピーに話かける。
「もう!勝手に出て行ったあかんやん…」といつものように抱っこしながら説教する。
ハッピーは問題を起こす事は多いが、人の感情を読み取るのがとても得意で空気を読む賢い犬だ。
この時も叱られている事にすぐに気がついたハッピーは、両耳を垂らして、しゅんとしながらおかんの言葉に反省したようだった。
そんな姿のハッピーをおかんはいつまでも叱る事はできず、いつもの如くまたお互いに甘えるようにじゃれあっていた。
誉はこの時ハッピーが道路に飛び出しそうになったあの日を思いだし、おかんとハッピーがこうして幸せそうな姿を目の前にし、ほっと胸を撫で下ろした。
なんでも無い休日の日だったが、ハッピーが居るだけでその日はイベントになる。
誉はそんなハッピーの居る刺激的でいて幸せな日々が当たり前のように平戸家に訪れた事にとても幸せを感じていた。
ここからしばらくの間、平戸家にはハッピーに纏わる特別なニュースになるような事は起こらず、幸せな楽しい日々が流れ続けていった。