幸せの白い犬 ④
ハッピーが来てから平戸家は一段明るくなったようだった。
この時誉は中学生になっていた。中学生といってもまだまだ子供で親の事にはとても敏感に反応する子になっていた。
夫婦喧嘩は相変わらずだったが、誉はハッピーが居る事でハッピーに安らぎを求めるようになり、幾分精神的に楽にはなっていた。ただ、おとんのハッピーへの焼きもちからハッピーの事でおかんと喧嘩するという新たな芽が誕生した事に誉はがっかりしていた。
「自分でおかんにプレゼントするって決めたんちゃうんか?男やったら仮に焼きもちやいても我慢しろや!たった一人の愛した女やろが!」
と心の中で喧嘩の度に叫んでいた。
何度も書くがそういう不器用なのがおとんという男である。
喧嘩を聞いているのは苦痛だったが、それが平戸家なのだとこの頃から受け入れるようになり、誉はおかんをサポートし励ます事に徹底するようになる。
誉が過剰なまでにおかんを愛し守ろうとするのは、幼い頃の体験から来ているのだった。
誉がおかんを大事にしている事は連れの間でも評判だった。その事について誰もマザコンとからかうような事はしなかった。
誉はおかんの話になると決まって
「おかんを愛されへんやつが女と付き合ったって大事にできる訳ないやろ」と中々にくさい言葉を平気で言っていたのだ。
この頃の誉は学校から帰り、おかんがハッピーを抱いてテレビを見ている光景がとても好きだった。
その時間帯はおとんもまだ帰って居ないので、存分にハッピーを愛でる事ができる時間なのだ。
「おかんいつでも好きな時に好きなだけハッピーとくっついてられたらもっと幸せやのになぁ」と思った。
この日も誉はおかんの抱いているハッピーに
「ハッピーただいま」と言いながら、くしゃくしゃに撫でまわし、その二人の光景に幸せな気持ちになるのだった。
この貴重な時間があるからおかんも救われるのだろう。
おかんが少しでも幸せを感じられる事こそハッピーの役目なのだと改めて感じたのだった。
ハッピーうちに来てくれてありがとう。