誉の日記的物語

日記がてら書きたい事を好き勝手に書いています。 小説を書いており面白い小説がかけるようになりたいと、構成などはちゃめちゃですが書いてます。 読んで頂けると嬉しいです。どんな事でも意見貰えると助かります。

幸せの白い犬 ①

今日は家族でお盆のお参りに行く。

世間一般の習わしでお盆のお墓参りだが、うちでは大阪のミナミの御堂筋沿いにある北御堂というお寺の納骨堂にご先祖様を祀っている。

 

そこに家族で電車で向かっているのだ。ぼくは平戸誉小学4年生。サラサラヘアが特徴で周りからはかわいいと言われていたが

「僕は男やで、かわいいは嬉しくない」と返すのが定型文となっていた。

この日は僕にとって待ちに待った日だった。お盆のお参りがそんなに待ち遠しいのかというとそうではない。白いポメラニアンが我が家に迎えられる日だったのだ。
お盆のお参りに向かう車内で僕は、はしゃぎながら
「なぁなぁ、名前何にする?決めてもいい?」とピョンピョン跳ねながらおかんに問いかける。
「もう考えてるん?」と微笑みながらおかんが僕に問いかけるのと同時に
「ハッピーがいいねん!」と食いぎみに満面の笑みを浮かべながら答えた。
しかし直後に誉は少し何かを含んだように「ハッピーって英語で幸せって意味やろ?ハッピーがうちに来たらうちの家族幸せになれんねん」とどこか寂しげに付け加えた。
おかんの|酉子《ゆうこ》は誉の気持ちに気がつき嬉しい反面切なさも感じていた。
「ええよ」と複雑な気持ちながらも笑顔で答えた。
平戸家は夜になると夫婦喧嘩の絶えない状況で、誉は小学生ながらに居たたまれない気持ちで過ごしていたのだ。そんな状況が好転するかもしれないと「ハッピーで幸せ」という意味を込めたのだろうと酉子もすぐに感づいていた。


そんな複雑なやりとりを無視するように家族を乗せた電車はいつもと変わりなく目的地へとひた走る。


御堂筋沿いを家族で歩き北御堂に到着した。

北御堂は正面に立派な門があり、門をくぐる幅の広い大きい長い階段がある。

僕と真ん中の兄キミは階段が見えるなり走って上まで競争した。当然弟の僕が勝てるわけもなく勝負は始まる前に決していた。
キミは運動神経がずば抜けており近所では野生児と言われる程とんでもない事をやってのけるお調子者だ。

このころ器械体操に興味を持ち体操クラブにも通っていた。一番の話題と言えば、過去に滑り台に26インチの自転車に乗ったまま登る遊びを友達達と考案し、その最中勢い余って滑り台から落下し骨折するなど話題性抜群の子供だ。

お参りを終え帰る際にはキミにとっての恒例の行事があった。

北御堂には立派な階段がある事は前述の通りだが、その階段の両サイドが畳一畳程の幅の石の壁のような作りで、ちょうど滑り台のような形をしている。

その横は何もなく高さは10メートル程あり、上から見るとざわざわする程の景色だ。落ちれば大怪我では済まないだろう。
キミはおかんの心配など気にする様子もなくその石の滑り台のような坂道を綱渡りかのように歩いて降りていくのだった。


ここまでが北御堂での平戸家の一連のお参りなのである。

だがこの日はいつもより行事が多かった。体操クラブに通っていたキミがバク転を披露して見せたのだ。

さすがキミといったような綺麗なバク転だった。ここで終わるならまぁよくある話なのだが
「おとうさんもできるで!」とおとんもバク転をすると言い出した。
おとんの敏英は昔自衛隊に居てバク転もできていたという。

確かに過去にはできていたかもしれないが…みんなの不安を他所にバク転はひとまず成功し皆安堵した。

このバク転の際どうも肩を痛めたらしく後でわかった事だが、腱板を損傷してしまっていた。
「肩がなんか変やな」とぼそっと言ったのを長男のケータは聞こえないふりをしてその事に触れなかった。


長男のケータは勉強がピカイチで頭がとても良く真面目な兄だった。ただ、弟達とは壁を作っており誉とキミはどこか近寄りがたい物を感じていた。


地元に帰った家族は帰りにスーパーイズミヤへとやって来た。ハッピーを迎えに来たのだ。

 

大型のスーパーではないけれど小さなペットショップがありそこでおかんが惚れ込んだのがハッピーだった。
酉子と敏英は喧嘩ばかりしていたが買い物に一緒に行く事もあり、イズミヤのペットショップの犬を二人で見るのが密かな楽しみだったのだ。

ハッピーは酉子への口下手な敏英からの贈り物であり、感謝や詫びの気持ちが込められていたのだろう。


ペットシーツやご飯におもちゃ等必要な物を買い揃えハッピーと共にイズミヤを後にした。