誉の日記的物語

日記がてら書きたい事を好き勝手に書いています。 小説を書いており面白い小説がかけるようになりたいと、構成などはちゃめちゃですが書いてます。 読んで頂けると嬉しいです。どんな事でも意見貰えると助かります。

幸せの白い犬 ②

サッカーボール程も無い大きさのハッピーはダンボールのような入れ物で連れて帰ってきた。

今思うと箱で連れて帰らせるとはいかがな物かと思うがそこは置いておこう。

実はこのダンボールだか、ハッピーを家に連れて帰るには逆に都合が良かったのだ。

平戸家が住んでいるのは府営の団地で犬を飼うという事に関して曖昧なルールでグレーだったからである。

まぁこれから飼うのだから連れて帰る時に隠そうがあまり意味はないのだけれど
「箱ってかわいそうやけど隠せるから良かったやん」とおかんが言った事に誰も異論を唱えなかった。


始めての家、ハッピーにとっては未知の世界に連れてこられた気分だろう。

それを全身で表すかのように箱から出してもらったハッピーは、まるで雪の中に裸で放り出されたかのようにその白く小さい身体をガタガタと震わせて怯えていた。

誉はその様子を見て
「僕だっていきなり知らん人に知らん所に連れていかれて、こんなに人に囲まれたら怖いし」とハッピーが怯えるのを落ち着かせようと撫でながら言った。
「そりゃそうやな」と言いながらおかんはハッピーを抱き上げ、まるで子供をあやすように話かけながら凄く嬉しそうにしていた。
ハッピーがうちに来た経緯について補足になるのだが、酉子は保育士で子供が大好きだ。

おかんに子供を抱く喜びをハッピーを飼う事で満たしてやれると考えての事だったと後になって知った。


そのおとんだが、ハッピーを抱くおかんを見て喜びを感じているとばかり思っていたのだが、なぜか焼きもちをやいて少しストレスを感じていたらしい…ほとほと不器用な男なのである。


ハッピーが来て1年がたった夏休み、おとんを覗いた4人とハッピーで北海道のおかんの実家へ里帰りした。

小学生の頃は夏休みの間北海道で過ごすのが平戸家の恒例行事だった。
ハッピーは初めての飛行機なので酔い止めを動物病院でもらい飲ませてあげたのだが、過度のストレスもあってか空港でハッピーを引き渡してもらった時にはもどしてしまっていて少し元気が無かった。
「ハッピー、大丈夫かぁ」とケージ越しにキミが話かける。
「ちょっと外で出してあげようや」と誉が言うと
「せやなぁ、外で水飲ましてあげよ」とおかんが言いながら、皆は空港の到着ロビーへと向かった。
ロビーではじぃじとばぁばが迎えに来ており、こちらに向かって手を振っていた。
普段物静かなケータもこと時ばかりはじぃじとばぁばを見て笑顔で二人に近寄っていった。
「無事ついて良かった」とじぃじが安心したように言うと
「犬は大丈夫か?」とばぁばがハッピーを心配している
「ちょっともどしてぐったりしてるからいっぺん外出よ」

おかんが皆を先導しながら外へ出てハッピーも解放され水をペロペロと飲み、少し落ち着いたようだ。

怖かったのだろうか、目の辺りが濡れていた。
突然一人にされ長時間よくわからない空間に拘束されたのだから無理もない。
駐車場へ行き車に乗り込みじぃじの運転で家へと向かった。


家へつくとおかんはおとんへ電話した。
「無事ついたから」と雑談を交わし電話を切った。
夏休みの間おとんは一人で家に居る事になるのだが、一人は少し恐ろしさを感じていたらしく、おかんといつも電話をしていた事は内緒である。


おかんは、「ふぅ、ちょっと休憩」とソファーに腰を下ろした。
三人も子供を連れてハッピーも居るとなるとそれだけでもおかんにとっては重労働だっただろう。


平戸家は約1ヶ月の間北海道でのんびりと過ごしあっという間に夏休みが終わり大阪へ帰る日がやってきた。

帰りは家の近所から高速バスが出ているので、それに乗って帰る事になっていた。
バスが到着しじぃじとばぁばに別れを告げてバスに乗り込む。

窓越しに見える二人は手を振っている、誉は外を見る事ができない。

誉はじぃじとばぁばが大好きで離れるのがとても辛かったのだ。号泣してとても不細工な顔になっていた。
「ほら!じいちゃんとばぁちゃんにバイバイしいや」と酉子に促され、やっとの思い出二人に手を振りバスは走り出した。
誉は空港に向かうバスの中、到着するまで泣き続けた。座っていた窓際のカーテンに隠れるようにしてなき続けていたため、バスのカーテンが湿る程だった。


楽しかったはずの北海道なのに、なぜこんなにも悲しい思いをするのかと子供の誉は少し複雑な気持ちになった。
ハッピーの初めての旅、誉の切ない記憶と共に短い夏が終わる。