籠り物語
風呂場はすでに宿泊客はなく、広々とした風呂場を卓は一人で満喫する事ができた。
シャワーで汗を流し湯船へと向かう。
少し手をつけ温度を確かめる。
寝起きで体温が下がっている卓にはとても熱く感じた。
洗面器でつま先から順に少しずつお湯をかける。
熱さのあまりかける度にその場で足踏みをする。
ようやく肩から全身お湯を浴び、なんとかお湯に慣れた。
恐る恐るつま先を湯船へと侵入させる。
さすがにまだ暑さを感じるが、思い切って入ってみた。太股辺りまでお湯に浸かっているが、暑さで脚全体が激しく脈打つ。
じわじわと身体を湯へと落とし込み、ようやく全身がお湯へと浸かる。
「うぅ、あっつ…あぁ、でも気持ちえぇなぁ」
1日の疲れがお湯に溶けていくような、天へと昇る程の快感を卓は感じた。
「頑張った日の風呂って最高やなぁ」
卓はシーズン中のこの時間は、急がず何も考えずにのんびりしようと決めた。
あまりの気持ちよさに、つい長く浸かりすぎてしまいのぼせてしまった。
卓は幼い頃から風呂は大好きだったが、それに反してすぐのぼせるという弱点があった。
「誰もおらんからいいか」
のぼせた卓は風呂場の冷ややかな床に大の字に寝そべり、のぼせた身体を冷やした。
「気持ちえぇ、風呂場で大の字たまらんなぁ」
この時卓は、ここがペンション、ましてや住まわせてもらっている等と言うことは完全に忘れていた。
少し落ち着いた所で頭と身体を洗い、初めての神戸屋の風呂を出た。