誉の日記的物語

日記がてら書きたい事を好き勝手に書いています。 小説を書いており面白い小説がかけるようになりたいと、構成などはちゃめちゃですが書いてます。 読んで頂けると嬉しいです。どんな事でも意見貰えると助かります。

籠り物語

部屋へと戻り当たり障りの無いメールを彼女へと返信した。
ひとまずはこのまま乗りきろうと思っているのだが、感情の無い虚しい付き合いの時間を彼女に強要しているようで複雑な気分だった。
ベッドでそんな事を考えながら眠りについた。

 

それからクリスマスまで淡々と日々の仕事をこなし、大好きなスノーボードに明け暮れた。

その頃には仕事にも慣れ、ペンション生活にも慣れていた。

 

クリスマスのゲレンデは初心者のカップルで溢れ帰り、そこら中に座り込んでいるカップルがいた。
卓はまるで自分が場違いに感じる程の光景だった。

そんな光景に嫌でも彼女の事を考えてしまう。
スノーボードに集中したくても心のそこから楽しめない自分にもやもやしていた。

 

卓にも彼女が居るため、一見クリスマスは楽しいイベントのはずなのだが(離れているためなんとも言えないが)、今の卓にとってはスノーボードの妨げとなる辛いイベントだった。

読んで頂いている大事な読者様へ

仕事が変わり1日一区切りの小説ができない日が出てくる状態になりました。

文書を書けないのは自分に取っても苦痛なのですが…

 

自分勝手に書いているだけなのですが、自分の趣味に目を傾けて頂ける事が嬉しいためこのような事を書いています。

 

今まで通りみんなに読んでもらえるとは思っていませんが、目を向けてくれている方には一言お伝えしたかったのです。

 

休みの日に小説をストックして行こうと思いますが、日々途切れる事も出てくると思います。

それでも気長に読んで頂けると嬉しく思います。

 

突然辞める、小説を辞める事はありえません。

誰もそれを望んでいなかったとしても。

 

自己満足の小説で誰かが暇を潰す事ができるだけでも光栄です。

どうか温かくこれからも見守って下さい。

 

籠り物語

夕食のセッティングを終え小休止を取っている時、康之さんが
「卓彼女おらんの?まぁおってもお前やったら置いてでも来るわな」
笑いながら卓に言った。

なんてリアルタイムな質問なんだと卓は思いながら
「一応居ます、そして、まさに置いてきてます」
苦笑いするしかなかった。

 

卓は忘れていたさっきのメールを思い出し、少し憂鬱な気分になった。

 

夜の仕事を終え部屋へと戻り一服しながら、ようやく彼女からのメールを開いた。
だが、すぐに返す事はせず忘れようとするかの様に煙草を揉み消し風呂へと向かう事にした。

 

湯船に浸かりながら物思いに更ける。
自分の答えははっきりしてるのだが、切り出すタイミングがわからず、そんな状態をズルズル続けている事に罪悪感を感じていた。

 

風呂に来たのも頭をぼぉっとさせて頭をリセットする目的だったが、のぼせるだけで良い答えはでないままだった。

ただひとつ、3学期の間には必ずけじめをつけようと自分に言い聞かせ風呂を後にした。

籠り物語

神戸屋へと到着した卓は乾燥室へ板をしまい、ウェアの裾を捲って部屋へと上がった。


タカシはまだ戻っていなかった。

ウェアを脱ぎ仕事着に着替え一服し、仕事まで少し昼寝する事にした。

滑った後で疲れた身体に暖かい布団の組み合わせは、卓を眠りへと導くのに時間はかからなかった。

 

目一杯滑り、暖かい部屋へと戻り、昼寝をするこの瞬間も籠りの一つの楽しみと言える程にそれはとても心地よい時間だった。

 

卓は部屋が開く音で目を覚ました。
タカシが帰って来た。


卓は起きて煙草に火をつけた。
「卓帰ったの早かったんやな、どうやって帰ったん?」

タカシの言葉に先程の嫌な記憶が蘇る。
「滑って帰ったら楽やろ思て滑って帰ってたら、村の人に派手に怒鳴り散らされたわ」
卓は苦笑いしながら答える。
「まぁ俺が悪い事したんやし、しゃあないけどな」
「卓滑るの上手いしな」
タカシは少し気を使いながら慰める様に笑った。
それに釣られ卓も笑った。

 

二人はおやつを食べながら他愛もない会話をしていた。

 

ふと卓の携帯にメールが届いた。
卓が付き合っている彼女からだった。


卓はメールを読む気分にはなれず、ひとまずそのままにしておく事にした。

籠り物語

駐車場からペンションへと向かう下りの道に差し掛かった。
卓はそこで板を履いた。

 

除雪された道路はコンクリートを感じる程の雪面ではあったが、かろうじてソールに傷はつかない程度の雪はついていた。

 

歩いて帰るにはまぁまぁの距離だが、滑って帰ればどうという事は無かった。
斜度はほとんど無い道路のためノロノロと滑っていたその時、村の除雪車が後ろから走ってくる音がした。


卓は端に寄って止まった。
除雪車が卓の近くに来た時、クラクションが鳴る。
明らかに攻撃的な怒りのこもったクラクションだ。

 

除雪車が卓の横に差し掛かった時、窓が開けられ
「ここ道路やぞ!お前どこももんじゃ!どこのペンションのバイトや!」
卓は叱られた犬の様に小さくなった。
「すいませんでした」
卓に深々と頭を下げて謝罪した。
「危ないやろが!二度とするなよボケ!」
運転手の怒りは収まらない様子だが、そのまま走り去って行った。


卓は走り去る除雪車を見送りながら、行ってくれた事にホッとした。

自分の下レベルの低いマナー違反のせいでペンションに迷惑をかける事だけは避けたかったからだ。

 

卓は反省し直ぐに板を脱いでとぼとぼと歩いてペンションへと帰って行った。

籠り物語

リフト終点タカシは危なっかしい滑りだが転ぶ事なくクリアした。
卓は先にビンディングをはめ、既にスタンバイできていた。

 

タカシのボーゲンの滑りに合わせ卓は並走する。
転ぶ事は無いが、スキーをした事の無い卓から見てもドキドキする滑りだった。
卓は退屈なので、その場でトリックをしながら遊ぶ様にタカシの速度に合わせて滑った。

 

リフト一本分付き合った卓は、リフト乗り場で
「もうちょい俺軽く流すけどリフトとりあえずもう一本乗る?」
するとタカシは
「じゃあリフト一緒に乗ろう」
「りょうかい、ほないこ」

リフトの上では案の定卓の滑りに対する話題が、タカシから繰り広げられていた。

 

「ほなちょっと行ってくるわ。気をつけて滑れよ」
そう言い残しそそくさと卓は更に上へ向かうリフトへと向かって行った。

 

卓は滑りが合わない人間とは滑る事はしないタイプなのだが、同じバイトのよしみで一本付き合ったのだった。

 

それから卓は何本か滑り、早めに切り上げる事にした。

迎えは無いのだが、道路もゲレンデ並みの雪があり安易な考えの元、ペンションまで滑って帰る事にした。

 

ただそこは公道である事を知ってか知らずが、そこまで深い事は考えていなかった。

籠り物語

リフト乗り場の近くに立っていた卓の元に、ボーゲンで危なっかしい滑りのスキーヤーが近づいて来た。


「お前もしかして素人なん?」
卓は籠りに来てるぐらいだから、そこそこ滑れるもんだとばかり思い込んでいた。
「何回かやった事あるけど、そんなレベル」
タカシは照れ笑いする。
「よう籠ろうと思ったな、上手くなりたかったん?」
卓にとっては籠り=滑って上手くなるという思考のため、特に意味は無く率直な意見だった。

 

「スキーはした事あったしリゾートバイト楽しそうやったから」
「そういう人もおるんか、寧ろそういう人の方が普通なんかな?」
不思議に思いながらも自分がズレているのかという些細な疑問を抱いた卓だった。

 

「まぁえぇか、滑ろか。リフト乗ろうぜ」
そう言ってさっと乗り場へ向かう。
タカシはおぼつかないスケーティングで必死で卓の後を追った。

二人はトリプルリフトに乗ってファミリーが多い初級コースを滑る事にした。
タカシの滑りを考えると卓にはここ以外に選択肢は無かったのだ。

 

「卓ってプロなん?」

タカシが唐突に切り出した。


「いや、プロは興味ないねん、努力して資格取っても金払わな資格認定されへんし、それって可笑しいやん?スポンサーは有難い事にもらえてるけど」
「えっ!?凄いやん」
「スポンサーなんて頑張れば誰でも貰えるよ。普通の事や」
「そんな訳ない、凄いよ」
「じゃあそういう事でいいよ」
卓は弁解するのが面倒になり、笑いながら軽く流した。

 

卓にとって上手いと言われる事、プロやスポンサーを話題に褒められる事など全く興味が無かった。


もっともっと上手くなりたい、ただ上を目指したい、それ以上でも以下でも無かった。

籠り物語

気がつくと少し眠っていた。


15分程眠った卓の身体は少し回復はしていたが、少し冷えてしまっていた。
暖房の前へ移動し、床に座り込んで軽くストレッチをしながら暖めた。

 

身体も目もスッキリした所でもう一本ゴンドラで山頂へ向かう事にした。
ひとまず一番下まで滑り、それから考える事にした。

 

山頂から林道を通り、ゴンドラの乗り場の方へと向かって行く。
ここからはとてもなだらかな緩斜面で家族連れやカップルなどが楽しそうに声を挙げながら滑っていた。

 

卓はそんな経験をした事が無く、少し羨ましい気持ちになっていた。


スノーボードをするために来ているとはいえ、滑り仲間が居る事は羨ましいのだ。ただ、卓の滑り仲間とは誰でも良い訳ではなく、お互い干渉せず高めあえる、あくまでもスノーボードありきの仲間なのである。

 

そんな事を考えてるうちに乗り場へと到着した。

「卓!」
その声に辺りを見渡す卓。
恐らくタカシだろうと思ったが、タカシのウェアをちゃんと覚えていなかった卓はすぐに見つける事ができず、タカシが近づいてくるのを待つ事にした。

籠り物語

スキーヤーが好んで滑るこのコースは、普段はコブになっており、パウダーでも無い限りスノーボーダーはあまり寄り付かない。


卓はスノーボーダーでは珍しくコブを滑る事がとても好きだった。

いつかモーグルコースでスキーヤーと競いたい(到底敵うはずはないとわかっているのだが)と野望を抱いていた。

 

だが、今のコンディションは絶好のパウダーだ。
昼を過ぎているためトラックが無数に刻まれているが、卓はめぼしいラインを決め早速ドロップした。

 

数日降り続いた雪で、コブは全く感じられず、またあの宙を浮いているような感覚だった。
次々に残った吹きだまりのパウダーめがけラインを取る。
その度に卓の上げるスプレーが宙を舞い、陽の光に照らされ光輝く。

 

一気に滑る卓の呼吸は少し乱れている。
しかし、パウダーにとりつかれた卓は一心不乱に滑り続けた。

その勢いのまま少し斜度が緩くなるコースへ出ると、そのまま中間駅へと流した。

 

いくら白馬とは言え、ここまでのパウダーが2日も連続で当たるとは思っていなかった卓は、これだけでも今シーズンここに来て良かったと思った。

 

中間駅へとまたやって来た卓は少し休憩する事にした。

レストハウスは暖房が効いていてとても快適だった。
そこで康之さんの握ってくれたおにぎりの残りを食べた。

 

朝早くから仕事をし、一気に滑った卓はおにぎりの満腹感と暖房の暖かさでうとうとしていた。
少し昼寝をするか、このまま滑って早く帰るか、うとうとしながら少し考えていた。


まだ来たばかりで身体がこの生活に慣れていないため、思いの外疲れが溜まっていたのだろう。

籠り物語

雪まみれの姿でそのままゴンドラの中間駅へと滑り降りた。


板を外し雪を軽く払い落とすと、レストハウスの側で板を反対に向けて雪面へと置き、その上に腰掛け煙草に火をつけた。


肺いっぱいに吸い込んだ煙を真っ青な空へと豪快に吐き出すと、座っている板から滑り落ちる様に雪面に大の字に寝転がった。
「気持ちえぇ、ここは天国やな」
澄みきった青空に卓の吐く煙が雲の如く漂う。
そんな極上の時間を大の字で身体全身で受け止めながら、大自然の恵みに感謝するのだった。

 

一服を終えると再びゴンドラへと乗り込んだ。


ゴンドラから目星をつけたコースがあり、見た目にもハードな斜面のためトラックもまだ少ないようだ。
卓は次のターゲットを定めそこへと向かう事にした。

 

山頂駅からリフトをもう一本乗り継いだ先にそのコースはあった。
このリフトは本来ならパークリフトなのだが、雪も多く時期もまだ早いためパークはまだ無かった。

元より冬休みの間は身体を作る意味もあって、パークは自ら自粛していたのだ。

 

リフトを降りるとスケーティングしながら目標のコースへと向かった。


そのコースは斜度がかなりきつく、コース脇も崖のような形状のためかなりスリルのあるコースだった。
卓はリスクがあればある程アドレナリンが溢れでて興奮が収まらなくなる、スノーボードにおいては、かなりイカれた精神の人間だった。
「たまらんなぁ、これこそ滑る意味がある」

音楽、天気、パウダー、そしてこのコース、卓を止める者は居ないのだが、もはや誰も卓を止める事はできない状態だった。


無論止める必要も無いのだが。

籠り物語

ゴンドラの中間駅までに準備を終えた卓はカフェオレで一息ついた。
中間駅でも人は乗ってこず、山頂まで一人でのんびりと向かう。

 

昨日降り続いた雪はぱったりと止み、この上なく快晴だ。
「ドピーカンやな」
卓は独りで呟く。それほどまでの快晴だった。

 

ゴンドラから見渡す景色はどこを見てもパウダーが残っている事が確認できるが、どこもコース外のため見るだけで我慢する。
中にはコース外にトラックがあり、マナーを犯した人達もいるのは言うまでもない。

 

ゴンドラからある程度コースやバーンの状況を確認した卓は、ひとまず中間駅までアップをかねて流す事にした。

 

山頂駅へ降り立った卓は刺すような日差しにアドレナリンが溢れでるのを感じた。
軽く身体を捻ったり、屈伸して板を履く。
お決まりのイヤホンを装着すると、卓のテンションはすでに最高潮を迎えていた。

 

ドロップした卓は、雪質やバーンの状況を確認しながら、身体を慣らしつつ大きなラインを描きながらゆったりと滑る。
日によって微妙に違いが出てくる自分の軸や重心を丁寧に確認し修正しながらゆったりと。

 

確認を終える頃、斜度がきつく初心者が果敢に挑んでコースの真ん中に座り込んでいるコースと迂回するための林道のコースの分岐に辿り着く。
一本目だが卓の身体とテンションは既に整っていたため、迷わず斜度のあるコースを選択する。

 

分岐で止まる事なく斜度の変わる面をそのままのスピードでジャンプしながら突っ込んだ。
コースの真ん中には座り込んで居る人が居るため、コースの脇を狙っていく。
着地と同時に脇に残ったパウダーがスプレーし、卓の身体が一瞬雪の煙で見えなくなる。
コース外のギリギリの木の間の残ったパウダーを喰らい尽くす様に卓は勢いよく滑って行く。


この時卓は満面の笑みを浮かべていた。

籠り物語

康之さんの車へと乗り込み、ゲレンデへと向かう。


「お前ほんまにボード好きなんやな、昔おったバイトにもお前みたいなやつおったわ」
「そうなんですね、好きな人は好きなんですね。僕は今はスノーボードに命かけてます」
卓はおにぎりを頬張りながら答える。
「そいつも同じ事言うてたわ、怪我は気をつけろよ」
「はい、怪我しても這ってでも仕事はするので」
「それも同じ」
康之さんは思わず笑った。

 

そうこうしてるうちにゲレンデへと着いた。


「四時でえぇか?」
「はい、大丈夫です。お願いします」
「りょうかい、ほな気をつけてな」
そう言い残し康之さんの乗った車は走り去った。

 

卓はゴンドラ乗り場へと向かった。
乗り場の自動販売機でカフェオレを買って、ゴンドラの列に並んだ。

 

年末前の微妙な時期で、客の数はそこまで多くは無かった。


この日も一人でゴンドラに乗れた卓は、広々と滑り支度を始めた。

相乗りでパンパンになると、まともに準備ができないため滑る時間のロスになる。


卓にとってはゴンドラで運試しをしているような物だった。

籠り物語

一息ついた皆を他所に、卓はすぐに部屋へと向かおうとした。


「卓飯は?」
康之さんが咄嗟に声をかける。
「おにぎり自分で作って持って行きます。お昼なんて食べてる時間ないです」
「おっけ、ほな準備してこい」
康之さんは笑顔で卓を見送った。

 

卓は部屋へ入るなり煙草に火をつけると、一服するのかと思えば、煙草を咥えながらウェアに着替えた。


吸い終わるのと同時に準備を終え、休む間もなく部屋の急なはしごを降りて行った。

 

そこへちょうどタカシが上がってきた。
「早いなぁ、俺も飯食ったら行くわ」
「そうか、また山で逢えば」
卓はそう言い残しそそくさと厨房へと向かった。

 

厨房へ入ると、形の良い三角のおにぎりがすでにお皿の上に並べられていた。
「飯ぐらいちゃんと用意したるから」
康之さんが卓のために用意してくれたのだ。
「すいません、ありがとうございます」
「これぐらい当然やろが」
笑いながら卓に言った。
「いや、自分が勝手に急いで滑りに行くのにあわせてもらうのは気が引けるなと」
「そんなしょうもない事で気使うな、大丈夫」
「嬉しいです、ありがとうございます」
卓は頭を下げる。
康之さんは少し照れた様子でむず痒そうな表情だった。

 

「もう準備できたんか?」
「おにぎり包んだらバッチリです」
「ほな送ったるわ、車用意しとくからできたら外来いよ」
「わかりました、ありがとうございます」

 

康之さんが作ってくれたおにぎりをアルミホイルに包み、ウェアのポケットをパンパンにして、卓は乾燥室へと板を取りに向かった。

籠り物語

別館へ移動しタカシが居る部屋を探していると、チカさんも康之さんも拭き掃除をしてくれていた。

 

卓が戻った頃にはほとんど終わりかけていたが、今日の内に流れだけは把握しておきたい卓は、あえて掃除では絡みが無かった康之さんに声をかけた。


「おつかれさまです、ヘルプありがとうございます。拭き掃除ほとんど終わってるみたいなんですけど、流れだけ教えて下さい」

すると康之さんは
「ヘルプちゃうで、基本的には俺らも参加するし、バイトに全部やらすとかせぇへんから」
卓はその言葉に、過去に経験してきたアルバイト先での社員との言い争いを思い出した。


こんな人達だったらあの時のバイトもストレス無くできたのだろう。
そんな事を思い少し嬉しい気持ちになったのだ。
「凄くありがたいです」
卓は思った通りの事を康之さんに伝えた。
「なんで?お前やっぱ変わってるな」
笑いながら卓に言った。
「シンプルにそう思っただけなので」
少し照れながら卓は言った。
「まぁ、なんせ一緒にやるから」
そう言いながら、拭き掃除の流れを卓に教えた。

 

さっそく残りの部屋へと向かおうとした時、廊下にチカさんとタカシが居た。
既に拭き掃除が終わっていたのだった。


「これで掃除も終わりやから午前はおしまいやで。おつかれさま」
それにあわせて康之さんも
「おつかれっ」
二人が卓とタカシに労いの言葉をかけてくれた。
「おつかれさまでした」
二人は揃って頭を下げた。

籠り物語

卓も軽くアドバイスしながら、二人で協力して最後のベッドメイクを終えた。

 

チカさんは厨房で部屋毎の灰皿を洗っていた。


「ベッドメイク終わりました」
卓が声をかける。
「おっ、ほんなら後は部屋の拭き掃除と全館掃除機で終わりやな。タカシがやり方わかるから聞いてやっといて」
「わかりました」

 

タカシの元へ戻ると部屋の掃除機に取りかかっていた。


「卓は本館の掃除機二階からやっていってくれる?」
「りょうかい、全館言うぐらいやから全部やんな?」
「そうそう、わからんかったらチカさんに聞いてくれたら」

 

チカさんにはタカシに聞けと言われたので、チカさんには聞かずに全てのスペースを掃除機する事にした。


細かくする事に関しては注意されないだろうと思っての事だった。

 

卓は本館の二階、一階、パブリックスペース、食堂と順に掃除機をかけ厨房の前を過ぎた辺りで、別館の掃除機をしていたタカシと合流した。

 

「後は拭き掃除するから掃除機直したら別館来て」


タカシの意外とテキパキとした指示に少し感心しつつ、卓は掃除機を片付けにいった。